ウガンダ生活

ウガンダ・ブイクウェの生活を実況中継中

マリリンと私3

③笑えるマンソン

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最近になってやっと知られてきたマリリンの魅力の一面として、実はかなりユーモラスな人であることが言えるでしょう。

セールスの最盛期にはセンセーショナルなイメージが先行して生ける悪魔のような扱いすら受けていましたが、その後メディアへの露出が増え、映画やテレビドラマなどに俳優として出演するようになるにつれ、自然とお茶の間との距離感が縮まっていった感があります。

 

北米の大人向けアニメ「クローン・ハイ」に登場したマリリンが、食事の栄養バランスについて歌って踊って教えてくれるビデオ。ちゃんとオチてます。

 

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発言集には、かつてのマリリンがスマッシング・パンプキンズのフロントマン、ビリー・コーガンを騙してコカインの代わりにシーモンキーを吸わせた話が載っています。

 

「水槽から出して放置しておくと、乾燥して粉っぽくなっていくんだ。その状態で何年も放置しておいても、水に浸けると息を吹き返すんだよ。ビリーはそれをコカインだと勘違いして吸っちまったんだ。その後数年間、彼の鼻腔にはシーモンキーが住みついたってわけさ。ションベンと一緒にちっちゃなエビが出てきたら驚くだろうな」

 

やられた方はたまったもんじゃありませんが、まあこんな感じで悪趣味なイタズラのエピソードにはことをかきません。

ちなみにこれがそのシーモンキー↓

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こんなイタズラをされて尚こうやって一緒に写ってくれるビリー、なかなかいいやつじゃないでしょうか?

 

以上はマリリンの意図的なユーモアについて書きましたが、「Rock Is Dead」PVのシースルーコスチュームなどに見てとれるよう、時折マジなのかギャグなのかわからないギリギリのラインをついてくるのも彼の愛嬌の一つ。

NME誌では三部作に次いで4番目に評価の高かったアルバム、「Pale Emperor」(2015)よりシングル「Deep Six」のPVはその代表といえるでしょう。

百聞は一見にしかず、ある意味ここにあげたビデオですでにマリリンを知っている方には一番見て欲しい一本と言えるでしょうか・・・曲自体がめちゃめちゃかっこいいだけに、映像のシュールさがなおのこと際立っています。

それでもジャケットを脱ぐカットのセクシーさだけで、2015年度私の抱かれたい男ランキングだんとつ一位でしたが。

 

④キッズとマンソン

他の多くのロックバンド同様、90年代、マリリン・マンソンの主なファン層は10代〜20代のキッズたちでした。かくいう私も彼のファンになったのは12歳の頃であり、その点私の青春は常に彼の音楽と共にあったといっても過言ではありません。

多くのロックスターがそうであるように、マリリンは今のキッズたちに自分の昔を重ね、キッズたちはマリリンの昔に今の自分を重ねます。私が彼に心酔した最大のポイントもここにありました。

 

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Nothing suffocates you more than a passing of everyday human events

an isolation is the oxygen mask that make your children breathe into survive

日々の人々の営みほど君を窒息させるものはない

孤独こそは子供達を生き延びさせる酸素マスクだ

-Holly wood収録Fight Songより

  

僕みたいになりたいというファンには、僕のようになりたかったら自分らしくあることだと言っているよ。

-マリリン・マンソン発言集より

 

受験勉強で辛いとき、鬱屈とした気持ちで早稲田アカデミー都立大学校に通っていた私のカバンには常に彼の発言集がありました。また、中学で仲の良い同級生が全員不登校になって途方に暮れていたとき、私に語りかけてくれたのは学校帰りに寄る古本屋で買う音楽雑誌の彼のインタビューでした。両親の離婚、再婚とマリリンに傾倒した時期が重なっているのも、おそらく偶然ではないでしょう。

 

This next song is for every dad that said you weren't grow up to be anything at all

This next song for every teacher that said you were fucking stupid

And this next song is for everyone that you fucked and said you were going anywhere with your life 

And this next goddamn song is for every priest, that said you were going to hell

so I want you to chante, "Fight, fight, fight..."

これから歌う歌は、お前は何者にもなれないと言った全ての父親に贈る歌だ

これから歌う歌は、お前をクソバカ野郎だと言った全ての教師に贈る歌だ

これから歌う歌は、お前とヤッて、お前の人生はどうにもならないと言った全てのやつに贈る歌だ

これから歌う歌は、お前は地獄に落ちると言った全ての司祭に贈る歌だ

だからお前たちに歌ってほしい、「戦え、戦え、戦え・・・」

-シングル「Fight Song」収録のライブMCより

 

実を言うとこの記事を書くために繰り返し音源を聴いている今ですら、泣けてきそうになるくらい、マリリンの言葉には不思議な力強さがあります。それこそは彼自身が、鬱屈した少年時代を経て、それでも生き抜いてきたことの証といえるでしょう。

加えて彼の素晴らしいところはキッズたちの怒りや疎外感に共感を示しつつも、ただの慰めに終わらず、人生に必ず伴う痛みを包み隠さずに歌い、戦うための術を示している点です。

 

『違う時代だったら自分は違う受け入れられ方をされたんじゃないか?』って考えるのは簡単だよ。『この時代は自分にあってないだけだ』ってね。でも、他の場所に行って今以上に幸せになれるとは思わないな。むしろ、アーティストとして、自分のいる時代の価値観を変えるべきなんだと思う

 

A pill to make you numb, a pill to make you dumb, a pill to make you anybody else

But all the drugs in this world won't save her from herself

自分を麻痺させる薬も、阿保にする薬も、他の誰かにしてくれる薬も

彼女を彼女自身から救えない 

-Mechanical Animals収録曲Coma Whiteより

 

二つ目の引用は私の葬式のプレイリストにいれる予定の、「Coma White」という曲の一節です。

ここでいう「彼女」とは限定的に言えばアルバムの物語の中の登場人物を指していますが、より広義の意味では間違いなくリスナーひとりひとりに向けられた言葉といえるでしょう。リスナーの共感を集めつつ、「疎外された」と感じている人間にありがちなルサンチマンを彼は退けます。この辺りはニーチェの「力への意志」(我がものとし、支配し、より以上のものとなり、より強いものとなろうとする意欲)の影響でしょうか。虫けらキッズに寄り添うと同時に、そのような自分を乗り越えていくヒントを彼は提示してくれるのです。

 

しかして、そんなキッズからの強い支持が、翻って彼への激しい非難につながる出来事がアメリカで起こりました。

 

(つづく)

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